ヤブヌマ 侵食されゆく妻の蜜肌

『う、んっ……も、もう少ししたら、も、戻う、はら……』

(そう、いう……こと、か……あの時、咲美の声がくぐもっていたのは)

藪沼のペニスに奉仕しつつ、会話していたから。

唾たっぷりの舌腹でベロリと大胆に肉幹を舐り上げておいて。

『……も、戻る、から……』

言い直した声音にも、粘っこい響きが染みついている。藪沼のこぼした先走り汁がちょうど幹を伝い滴っていた。それを当たり前に舐り取り、咀嚼していたためだ。

受話器越しにそれを聞いていた夫が、不安と恐怖に憑かれてひと際声を荒らげる。それを受けて哀しげに瞬いた妻のまつ毛が、藪沼の陰毛と擦れ合い、互いにくすぐったさに目を細めた。

『だ、大丈夫……す、すぐ戻るから……』

まったく大丈夫でない涙声を響かせる。

その間も、咲美は藪沼の逸物の幹を舐り上げ、滴る我慢汁を胃に収め、空いた手で奴の玉袋を揉みこみすらしていた。

『ご、ごめんね……』

(そういう意味で謝ってたのか? 心配かけてるからじゃなく、今まさに不貞を犯していることを、それを甘んじて受け入れているからこそ……僕に)

気づいて欲しかったのかもしれない。

その咲美の鼻先に、藪沼の我慢汁滴る亀頭がぶら下がる。腰をわずかに引いて、奴自らの意思で見せつけられたそれを、涙の溜まった瞳で凝視して。

『ごめんね、ほ、本当に戻るから、部屋で待ってて……』

焦ったような口振りで、咲美が通話を打ち切りにかかる。

じゃあ、と告げた直後にはもう、妻の舌と唇は間近の肉凶器へと捧げられていた。

「……ッ、ぁ……ッッ!!」

途中から擦るのを忘れていたにもかかわらず、通話が打ち切られた瞬間に手中の肉竿が暴発する。噴き上がるのではなく、ひり漏らすといった感じで、情けなくも漏れ滴った白濁のぬるつきと温み。映像の中の藪沼が放った射精は二度とも、こんなものでではなかった。

「ち、くしょう……っ! どう、してっ……」

付随した悦の波も、悠長で、波圧自体物足らない。果てたというのにひと際の焦燥と屈辱がはびこり、それを糧として肉竿がなお伸び上がる。

一向に萎える兆候を見せない己が股間を蔑みつつ、ぎょろりと血走った目でノートパソコンのモニター上に映し出される男女の動向を窺う。

そこではすでに、三度の性器同士の結合が成されようとしていた。

『そうだ。せっかくだから旅行の記念に、浴衣を着てよ』

藪沼の提案を、忘我の面持ちで聞いていた咲美。その肢体がのろのろと、手渡された浴衣に袖を通してゆく。

『あ。下着はもちろんなしで。前も、はだけたままでいいからね』

言いつけ通りの着こなしで、じかに浴衣に覆われた乳房の突端部がツンと尖り盛っているのが嫌でも目についた。もじつき通しのヒップも、浴衣が汗で張りついた分余計に淫蕩の丸みを強調している。

咲美は、男に肩を押された瞬間こそ、ぎゅっと股を閉じるそぶりを見せたものの。

『ふぁッ』

仰向けに寝転がった矢先に下腹を萎えしらずの剛直に打ち据えられた途端、ビクンと大きく跳ね弾み。二度、三度と逸物が鼓動を伝えた時点で、妻の汗ばむ腿から先が敷布団上に投げ出された。

『ね、アサオカちゃん、お願い』

藪沼がフェラチオで必要以上に温まった剛直を、抜身のまま女陰へと宛がう。

「なっ……! やめろっ!」

『……っ!? いっ、いやっ、やっ』

画面を見つめる夫と、その先に映る妻。夫婦の驚愕の声が、重なって迸る。

『いいじゃん、ねっ、ほら……先っちょ……入れちゃうからねぇ……』

久方ぶりの明瞭な抵抗をも楽しんで、にんまりと笑んだ奴の腰がわずかに押し出された。

『ふァッッ!』

幾度の絶頂によって蕩けほぐれた、先ほどまでのフェラ奉仕で昂ってもいた女の秘裂が、さしたる抵抗も見せずに、亀頭を雁首部分まで受け入れてしまう。喜悦のしるしである蜜汁が、ジワリ、ジワジワ、膣口から押し出されて染み溢れている。それがそのまま咲美の心情であるように思えてしまい──。

『ぜったい、外に出すからさっ』

決定的な台詞を藪沼が吐いた瞬間。手淫を忘れた右手がデスクを叩く。

奴は、藪沼は生で──避妊具なしで咲美との結合を果たす気でいる。

「ふざけるなっ……そこはっ。それだけはしないと……誓約したじゃないかっ」

──必ずゴムはつけると。だからこそ僕は承服した。それを裏切る真似を、よくも。

──奴が約束を守る奴じゃないと、知っていただろう? そのうえで承服したんだ。こうなるのを、心のどこかで期待して……。

(この期に及んでまだ……僕を苛もうってのか)

衝動、煩悶、慟哭。瞬く間に移り変わる心模様に翻弄され、ただただ映像の中の男女を食い入るように見つめることしかできなかった。

『ねっ、お願い、絶対約束するから』

『やっ、やっ、あ……』

またわずかに正常位で覆い被さる藪沼の腰が沈む。逃げ場を求めて、咲美の身体が敷布団の上を右往左往する。その儚い抵抗さえ、のしかかる藪沼の重みに阻まれて、じきにままならなくなり。

『そのほうがアサオカちゃんも気持ちいいよ、マジで。絶対内緒にしとくからっ』

決して奥に突き入ることなく、浅い位置での、緩やかさをも保った、焦らす気満々の律動が、始まった。

『だっ、めっ、そっ、んっ、ああっ、やあああっ』