ヤブヌマ 侵食されゆく妻の蜜肌

柔らかな咲美の乳房が、また藪沼に好き放題揉まれ、歪にひしゃげさせられながらも喜悦に溺れて、より盛んに摩擦愛撫に興じだす。

『んんっ……ちゅ、うぅぅっ……ぁ、や、ぁぁんっ……』

最大限乳谷を突き上がった逸物の亀頭に、項垂れ待ち構えていた女の口唇が吸着する。引き留めるように強く、頬をすぼめ啜った末に、願い叶わず乳谷へと戻っていく逸物を愛しげに見送り。口内に残った絞り汁を啜り飲む妻の表情は、この上なく幸福そうに、夫の目には映った。

『あぁ、きた、きたっ、次っ、ずり上がったら出るっ、からねっ、思いっきり締め上げててよォッ!』

『は、ひィぃッ……ンンッッ』

真下から突き上がった藪沼の腰が、咲美の乳房を打ち据える、バチュンッという音が轟く。その残響が鳴り響く中、白濁色の種汁が迸る。残り汁という表現通り、量も、勢いも過去四発より衰えたそれは、弧を描き、待ち構える咲美の鼻梁へと着弾した。

『んぁっ……あ……か、髪はやめて……すぐに取れない、から……』

(咲美……君は……)

藪沼の精液に鼻筋から下を狙い撃ちされ、ドロドロと滴るそれを舐り取っては口内に運び、飲み下しながら。なお、夫に性交の痕跡を見咎められるのを恐れている。いかなる時も、どこまでも「浅岡智の妻」であることを忘れないでいてくれる、愛しき人。

「くぅ……っ、あァ……!」

慕情に憑かれた肉竿が、ろくに擦ってもいないのにまた、手中で跳ね盛り、画面内の男に負けじと白濁の汁を吐精した。

──咲美への愛が尽きぬ限り、この悦びもまた失せはしない。

切々と漲り続ける慕情を胸に抱き、目を見開いて前を向く。視線の行き着く先で、三十分足らずの映像が終幕に差し掛かっている。

『先っぽ吸って。全部吸い出して』

男のイヤらしい囁きと。

『ふぁ……っぢゅ』

応ずる女の、啜り、飲む音の響き。そして男を陶然と見つめる、上目遣い。精液と唾液の混合汁によって濡れ輝く唇の、この上なき艶めかしさ。

すべて余さず傍観者たる夫の心に刻みつけて、映像は終了した。

「あ。智。もう夕ご飯できてるよ」

午後八時を過ぎてようやく階下に降りてきた夫を、少しむくれて、けれど柔らかな雰囲気を纏って出迎える妻。その様子は、いつもと何ら変わりない。

だが、映像の中で浅ましく淫らに腰を振り立てていたのもまた、紛れもない彼女自身。愛しき妻、咲美の一面に違いないのだ。

「ごめん。ずっと寝てて……」

三度繰り返して三度自慰射精した映像が瞬時に瞼裏にフラッシュバックし、思わず股間が猛りかける。咳きこむふりをしてわずかに前屈みとなり、結果的に妻の顔との距離が縮まった。

「うん。顔色もよくなってる。どれどれ? 熱も……下がってるみたいね」

届きやすくなった夫の額に手を添えて、咲美が顔を綻ばす。そのさまが堪らなく愛しさを駆り立てる一方で、同じ口がこれからどのような嘘をつくのか。想像すると切なさに胸が締めつけられた。同時に、期待に起因する高鳴りもけたたましさを増す。

「そうだ。明々後日しあさって、水曜日だけどさ。外で飯、一緒に食わない? 智美も連れてさ」

「……どうしたの、急に?」

問い質す咲美の表情に、表向き変化はみられない。

だが、恋人として、さらには夫として人生を共にした十年が、彼女の平静の理由を見出してしまう。大学時代、共にシナリオ研究サークルに所属した咲美も、当然心得ているはずなのだ。

──嘘は堂々とつき通したほうが、ばれにくい。

「うん。僕の快気祝いってことで。どうかな」

より咲美が断りづらい理由をつけて、再度彼女の顔色を窺った。少しの変化も見逃さぬつもりで、愛しい妻の顔をじっと凝視する。

「うー、ごめんっ。明々後日は、高校の友達と久しぶりに会う約束してるんだ」

咲美は申し訳なさげに、いつもの彼女のそぶりを損なうことなく、瞳を揺らがせもせず──嘘をついた。

彼女は知らないのだ。夫が今日届いた映像に心奪われ、歪な妄執の深層に踏み入る決意を固めたことも。映像を観終えてすぐ、届け主たる藪沼に電話をかけたことも。奴の定めた次の密会日が明々後日であると聞き出してあることも。その密会の算段に、夫が一枚噛むと決めたことも。何一つ。

(本当に……?)

勘のよいところがあり、誰より夫の心情の理解に長けた愛妻。彼女は本当に、気づいていないのだろうか。

「……ひょっとして、怒ってる?」

こちらの内情を窺うように見つめてくる視線をまともに受け止められず、つい顔を逸らしてしまった。

「……せっかく豪勢なディナーご馳走しようと思ったのにな」

拗ねた口振りを、慌てて取り繕ったと受け取られなかったろうか。まっすぐに注ぐ妻の視線に何もかも見透かされているようで、不安が膨らむ。それでも、再び歩みだした卑しき妄執を突き詰める道程を、踏みとどまろうとは思わない。

セックスに持ちこんで以降の手並みは称賛に価しても、性欲優先で動きがちな藪沼に下準備のすべてを一任するのは危険だ。藪沼の暴走に歯止めをかける監視役を果たしつつ、状況を整えるのに一枚噛む。

(万全を期しながら、より僕の妄想に沿う形での、咲美と藪沼の密会を実現させる)

「もう。そういうことは早く言ってよ。損したぁ。……ね、来週じゃだめかな?」