女子高生メイドと穴奴隷女教師

(それほどお気になさるのなら、いっそ、教頭先生ご自身が担当なさればいかがでしょうか!?)

(……って、そんなコト、言えるわけないしねえ)

(もし、そんなコトを言って、担当変え、クラス変えさせられて、カレとの縁が切れて、将来彼が大きく=大物の、金持ちになった時のコトを考えると、馬鹿馬鹿しい限りだものねえ)

真菜美は、我がまま勝手な要求を並べ立てる教頭を腹立たしく感じる一方で、自分自身でも、現実的にちゃっかりと算盤を弾いケイサンしていた。

真菜美から見ると、間名瀬透はどこをどうといって特長のない、ただ、少しばかり頭が良いだけの、ありふれた中学生に見えた。

しかし、その彼が今日で三日間、連続して学校を休んでいるのだ。全国統一実力試験の結果が発表されたのが週明けの月曜日。その翌日の火曜日から、今日の木曜日までの間、間名瀬透は登校してきていない。原因は不明だ。家人からは「体調不良」とだけ、届け出が出ている。病気なのかもしれないが、出身小学校からの内申書には「持病」や「健康上の留意点」「アレルギー」について特段の記載はない。全国統一実力試験の結果の発表直後ということもあり、当然、他の理由も考えられた。

(イジメ?)

誰でも考えつく理由を思いついたものの、確証はない。実際にイジメがあったにしろ、それが教師に伝わるまで時間がかかる。かといって放置する訳にもいかない。真菜美は教頭の神経質そうな表情を思い浮かべ、こめかみを押さえたくなる。

(さて、いったい、誰に、どんなふうに尋ねれば、良いのかしら?)

クラスの委員長? 席の近い同級生? 同じクラブに所属している人間? 仲の良い同級生? って、それは誰? 口の軽い子? 信用できる子? それともHRホームルームでいきなり、みんなに尋ねる? しかし、それは、あの生徒を特別扱いすることになり、いっそうのイジメを呼ぶかもしれない。

はぁぁぁッ。

思案投げ首していたところに、真菜美の机の上の隅に置かれた電話機のランプが点滅し、小さく鳴った。真菜美は受話器を取る。

「はい、加納です」

「加納センセイ、センセイが担当なさっている間名瀬クンの家からお電話です」

たまたま、電話に出た真菜美の同僚の、女性教諭の声がわずかながら緊張している。彼女もカレ、間名瀬透について知っているに違いなかった。いや、その表現には誤りがあるだろう。カレのコトを知らない人間は、もはや校内にはいないのだ。今朝も何か言いたそうにしていた、教頭と、それを止めた校長の姿を思い浮かべ、真菜美は、同僚以上に緊張しながら、声と姿勢を整えた。

「──繋いでください」

相手が切り替わるのを待って、真菜美は先ほどとは異なる声調トーンで名乗った。

「はい、加納です」

『間名瀬の家の者です』

真菜美が想像したより、はるかに若い、女性の声で相手はそう名乗った。

放課後、真菜美は事情を説明して、早々に業務を引き上げ、間名瀬家を訪ねた。小さな会議が予定されていたが、それをキャンセルしても、誰もとやかく言わなかった。教頭の威命が行き渡っているのでもなく、真菜美自身にそんな権勢がある訳でもなかった。『間名瀬透』という生徒の名前に、それほど力がある証左だった。

『間名瀬透』の家は、すぐにわかった。高級住宅地にあって、あたりを睥睨している高層マンションの、さらに高層階の一室だった。マンションの入口、共同のエントランス前に設置された呼び出しボタンを押すと、すぐに中から返事があった。

『はい、間名瀬です』

先ほど電話をかけてきた若い女性らしい声だった。

「明翔学園の、加納です」

『お待ちしていました、どうぞ、お入り下さい』

言われるままに、真菜美は、自分が担当している生徒が棲む、マンションに入った。入った瞬間、真菜美は、ココが億ションが並ぶ、超高級マンションである事を悟った。それほどまでに入口のホール、エントランスは高級感に満ち、壮麗だった。管理人ではなく、濃い青色の制服をぴしっと着た若い警備員が背筋を伸ばして、立っている。

『間名瀬』家の部屋は、その超高級マンションでも、ひときわ条件の良い、広い一室だった。

ピンポーン。

がしゃッ。

再び、『間名瀬』家の玄関口で呼び出しピンポンを鳴らすと、電動錠ロックがはずされ、大きく立派な一枚板の扉が内側から開いた。中から現れたのは、いかにも上品そうな、レモンイエローのワンピースを着た、非常に若い、短い髪の女性だった。年齢は25歳の真菜美よりも、12歳の間名瀬透の方に近いだろう。大学生ではなく、高校生ではないだろうか? しかも、とびッきりと称しても良いほどにキレイで、可愛イイ。眼もぱっちりと大きく、表情が豊かで、雑誌の巻頭グラビアを飾るアイドルだと紹介されても、誰も疑わないだろう。短くサラサラとした黒髪が明るい光沢を見せ、服の上からでも女性らしい凹凸に恵まれているのがはっきりと見て取れる。何より腰の位置が高い。脚も長いに違いない。ひそかに脚が長いのを自慢にしている真菜美が内心舌を巻くほどだった。

(母親ではなく、お姉さん? しかし……)

真菜美は頭の中で『間名瀬透』の個人ファイルをめくった。

(しかし、カレには兄弟はなく、一人っ子のはずだ。それじゃあ誰? 親戚か、何かだろうか?)