ごくッ。
真菜美の喉が鳴った。炒れたてのコーヒーの香ばしい匂いが真菜美の鼻をくすぐる。
くすッ。
真菜美の表情に気づいたのか、透は笑い、話しかけてくる。
「お腹が減っただろう? センセイの分もあるよ」
透はそう言って、透の右側にある机──いかにも美味しそうな朝食が乗せられている──の向い側にある椅子を勧めた。
「…………」
どう返事をしていいかわからないまま、真菜美は透と斜めで向かい合うように座る。
「……ンッ、……ンッ」
その間中、真菜美には目もくれず真菜美の教え子の脚の間に座りこみ、一心に口と舌を使っている、メイドの服を着た美少女の背中が気詰まりだったが、どうしようもなかった。
くすッ。
「まあ、食べなよ。美味しいよ」
その言葉と口調、それにその場の雰囲気から、この朝食を作ったのが、口舌奉仕をしている少女なのだと知れた。
「……いただきます」
朝の爽やかな空気の中に漂う、何とも言えない気まずい気分を追い払うようにして、そう挨拶をし、とつとつと食事を摂り始めた真菜美に透が軽い口調で話しかけてくる。
「センセイ、今日、学校を休みな。後で学校にそう連絡しなよ」
──!!──
まるで、世間話でもしているかのような、気弱な透の口ぶりだった。
透が通い、真菜美が勤める私立中学校は公立とは違い、土曜日の今日にも授業がある。 マウスを操り、メールを発信しながら、透は続けた。
「ボクは学校に行くから、センセイはココで、くるみに色々と教えてもらうんだ」
「そ……ッ、そ……ッ、それはどういう……ッ」
思わず、吃ってしまう真菜美に透がトーストを頬張りながら、説明する。
「センセイには、二番目のアナに、主に中学校で使うアナになってもらう。そのための、手ほどきを、くるみから受けてもらおうと思ってね」
くすッ。
そこで透は小さく破顔した。その笑顔だけ見ていると、普通の中学生と全く変わらない。素直な、無邪気とさえ表してよい爽やかな笑みだった。
「もっとも、手ほどき、っていうよりもアナほどき、開発だろうケドね」
──!!──
教師に対する本格調教を告げる、教え子の言葉に真菜美は愕然とする。しかし、真菜美の教え子はそんなコトは微塵も感じていないかのようだった。どこまでも太平楽に言う。
「どうせ、センセイも今日の土曜日は授業はヒトコマあるだけだよね? 代わり、と言ってはナンだけど、ボクが中学校に行くからさ。センセイも、使命が果たせた、っていうコトで、中学校にも言い訳が立つんじゃないの?」
──!!!──
真菜美はあらためて驚愕した。
透が述べたことは、ほぼ完璧な事実であり、真菜美の教え子が、真菜美の事情を完全に把握していることが知れた。透はまだ、薄ら笑いを閃かせたままだった。
「ボクが、センセイを調教シてもいいんだけれど、くるみに任せるのも面白い、って考えてね」
真菜美の教え子は真菜美の運命を他人任せにする無責任極まりない科白を気軽に口にする。
「まあ、中学校が終わったら、すぐ帰ってくるよ。手ほどき、アナほどきされながら、待っているんだね。あらためて言うまでもないと思うけれど、くるみの言うことは絶対だよ。センセイの先輩、一番目のアナ、というだけじゃなくって、ボクの代わりなんだからね」
──!!!──
(そ……ッ、そんな……ッ!)
真菜美はそう感じたが、口に出すことはできない。ココでは、中学生─女子高生─女教師という身分の序列を受け入れるしかないのだ。
「くるみもそれでいいな?」
透は自分の股座に、その可憐な美貌をうずめている女子高生メイドに尋ねる。
「ひゃ……ッ、ひゃ……ッ、ひゃいぃぃ……ッ」
くるみは舌と唇をつかい続けたまま、肯定する。
「それじゃあ、今日の予定はこれで決まったな」
「ふぁ……ッ、ふぁぃ……ッ、ひゃいぃぃ……ッ」
くるみは頰をふくらませたり、へこませたりしながら、透の問いかけに応じる。
……こうして真菜美の積極的な返事を待つことなく、真菜美の今日の日程というか、運命は決められてしまった。
その後、透はくるみの口の中にしたたかに精を放った後、差し回しの自動車で学校へと向かった。
「いってらっしゃいませ、御主人様」
玄関でくるみは昨夜の狂態や、つい先ほどの口舌奉仕など嘘のように衣装と居ずまいを正し、礼儀正しく頭を下げる。スカートの丈は昨日同様短いものの、胸元もキチンと閉じられ、肌の露出も抑えられている。まるで最高級のメイド喫茶店か、欧米の上流階級の屋敷での見送りを見物しているような気分に陥る真菜美はただ、ただ、呆然としているばかりだった。
ばたむッ。
扉が閉まり、お見送りを終えて頭を上げ、真菜美を振り返ったくるみの瞳には、明瞭な怒気があった。脅えないまでも、身構えてしまう女教師を女子高生が頭ごなしに叱りつける。
「ボヤッとしていないで、アナタも挨拶するのよ。朝、お出かけになる御主人様の前で、新米を叱るような無粋な真似をしたくないから、しなかったけれど、礼節くらいは弁えてちょうだい」